
サンプルパンは、DSC測定およびTGA測定時に使用するサンプル容器であり、 サンプルがセンサに直接接触しないようにセンサへの汚染を防いでいます。 使用するサンプルパンの種類によっては測定結果に大きな影響を与える可能性があり、 また、測定セルの重要な特性にも影響を与えます。 測定の前に、このような影響要因を考慮しておくと、測定後に分析結果の曲線の解釈が容易になります。
目次:
1. サンプルパンを選択する際に考慮すべき点
2. 適切なサンプルパンを選択するコツ
3. 用途に応じたDSC測定用サンプルパンの選択方法
4. 代表的なTGA測定用サンプルパン
5. サンプルパンを密閉する蓋(カバー)
6. 結果を左右するサンプルパンのシーリング
7. サンプルパンの種類によるアプリケーション事例
1. サンプルパンを選択する際に考慮すべき点
サンプルパンを選択する際に考慮すべき点は以下になります。
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2. 適切なサンプルパンを選択するコツ
サンプルパンの容量やサンプル量を増やし感度を向上
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パンの容量を上げることで弱いピークを検出
低質量サンプルパンを選択し
分解能を向上
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サンプルパンの質量を低くすると、分解能が向上
サンプルとサンプルパン間の望ましくない相互作用を防止
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不活性サンプルパンの利用でサンプルとの反応を排除
3. 用途に応じたDSC測定用サンプルパンの選択方法
・アルミ製サンプルパンの幅広いラインナップ:20μL, 25μL, 40μL,100μL,160μL
・耐薬品性、強酸や強塩基の測定が必要な際に最適な不活性パンもご用意
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4. 代表的なTGA測定用サンプルパン
・アルミナ製サンプルパンの幅広いラインナップ:30μL、70μL、150μL、300μL, 600μL、900μL
・より化学的に耐性の高いサファイア製やプラチナ製のサンプルパンもご用意
標準的な70 µL Al2O3(アルミナ製)サンプルパンの代替品
下表は、標準的な70 µL Al2O3 (アルミナ製)サンプルパンと、他のサンプルパンとの比較表です。感度、分解能、不活性を向上 するサンプルパンのタイプを記載しています
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プラチナ製(Pt)サンプルパンの選択の適応例(アプリケーション)
- 高温でのDSC信号に焦点を当てたTGAとDSCの同時測定
- 600°Cを超える温度での熱容量測定
- 金属特性評価測定(主に金属サンプルの溶融温度未満)
- 塩による湿度測定
5. サンプルパンを密閉する蓋(カバー)
・溶媒の蒸発を抑制、サンプルがサンプルパンからこぼれるのを防ぐために利用
・アルミ製3種類の蓋をご用意:標準、50μmの穴あき、測定直前に穴開け可能な蓋(オートサンプラー用)
・穴を開けることで、炉内の雰囲気ガスとサンプルパン内ガスが同一に
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6. 結果を左右するサンプルパンのシーリング
サンプルに応じて、最適なサンプルパンと蓋を選択すると、優れた熱分析測定が実現します。 サンプルパンを蓋で密閉すると、サンンプル内の蒸発を防ぎ、周囲の雰囲気との干渉を避けられます。 メトラー・トレドのシーリングは圧着式で非常に高い密閉度を誇ります。
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7. サンプルパンの種類によるアプリケーション事例
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左記グラフは、ミリスチン酸コレステリル(融解後に2回の液体・液体転移を起こす液晶)のDSCカーブを 示しています。測定時に使用するサンプルパンの種類によって、差異が認められました。30 µLの金メッキ 製高圧サンプルパンを使用しサンプルを測定した青いカーブは、約74°Cで幅広い融解ピークを示した 後、約81°Cと86°Cで液体転移に対応した2つの弱い効果が続いています。後者の2つの効果は、20 µLま たは40 µLのアルミニウム製サンプルパンを使用しサンプルを測定すると、より顕著なピークを示します。
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OIT(酸化誘導時間)実験では、サンプルの酸化安定性に関する情報が示されています。ここでは、高密度PE試料を不活性雰囲気下で200°Cに加熱しました。200°Cで12分30秒後、ガスを窒素から酸素に切り替えます。ガスの切り替えから酸化反応開始までの時間をOITと定義します。サンプルパンの素材により、サンプルの安定性に大きな差異があることが測定結果から分かります。銅は反応時間を延長するため、銅製サンプルパンを用いたたサンプルは、アルミニウム製サンプルパンを用いたサンプルよりもOITが大幅に低くなります。ケーブル業界において、これは重要な実験です(ASTMD3895)。
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左記グラフの例では、TGA/DSCを使用して、2つの金属(モリブデンとニッケル:青い線)の比熱容量(Cp)の決定と、文献値(記号付きの黒い線)との比較を示しています。Cp測定には、熱伝導率に優れたプラチナ製サンプルパンの使用をお勧めします。一般に、サンプルパンは蓋付きで使用し、そのサイズはできるだけ小さいものを選択します。プラチナは、約1100°C以上の温度でプラチナ製センサに付着する可能性があるため、サンプルパンとセンサの間にサファイア製ディスクを配置することをお勧めします。
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選択するシーリングの種類も、DSC測定に影響します。一般に石膏と呼ばれる硫酸カルシウム脱水物を用いて、例示することができます。石膏を加熱すると、脱水が2段階で発生し、半水和物を形成し、無水石膏を形成します。この脱水の工程について、開封されたサンプルパン、2種類の密閉されたサンプルパン(1つは1 mmの穴が開いた状態、もう1つは50 µmの穴が開いた状態)を用いて、測定し比較しました。上記グラフの通り、様々な種類のシーリングが測定結果に大きな影響を与えます。開封されたサンプルパンで測定したサンプル(最上部の曲線)の場合、脱水の影響で、1つの広い吸熱ピークが示されました。蓋に穴を開けた密閉サンプルパンの場合、同じサンプルを測定すると、2段階の脱水が観察されるようになります(中央の曲線、最下部の曲線を参照)。蓋に非常に小さな穴(この場合は50 µm)が開いている場合に、異なる相が頻繁に分離されます。
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低水分ポリマー膜サンプルをTGAで加熱する場合に、同サンプルの水分含有量を正確に測定するには大量のサンプルが必要です。したがって、約400 mgのサンプルを900 µLのサンプルパンで測定しました。サンプル調製と実際の測定の間に、蒸発によりサンプルは初期質量の約0.05%を失います。130°Cに加熱すると、さらに0.1%が失われます。これはサンプルの約400 µgに相当します。一方、70 µLのサンプルパンは、約30 mgの初期サンプル重量のみしか対応できず、全体の重量減少の段階は、45 µgに相当します。これは、400 mgのサンプルを充填した900 µLのサンプルパンを使用した場合のわずか0.3%に対し、測定の不確かさは約10%になります。